ファッション人の濃すぎる会話

製作のサポートをしてくれている友人との会話は、楽しい。
ファッションに関わる仕事を20歳からずっとしてきたけど、私の興味どんぴしゃな会話ができるのは、前職のファッション分野の講師陣だけでした。


だが、その友人と出会って「ヤバイ!同世代で話が分かる人、やっと見つけた!」って思ったんです。


恩師にずっと、「エミコと絶対話が合うから」って言われていたのは大正解でした。
友人はメンズ、私はレディスと分野は違えど、興味の方向性は一緒なので、話ベタな私の言葉の意味の汲み取りも早いし、私が躊躇してることも思いっきり背中を押されるし、びっくりする楽しい提案をしてくれるときもある。となると、私の製作に対する自由度もかなり高い。
まー、私のワガママな部分やらネガティブな部分やらなにやら、時間をかけて理解してくれた友人の功績もあるんですが。


そして、今日はオタクなその会話をご紹介します。


「ブリティッシュ(メンズ)とはなんぞや?」という投げかけから始まった会話。
ま、私のほうが稚拙な言葉使いだったり、無知な部分もあるので、思ったより友人の知識の深さを引き出せてるのかも!とも思いますが。
ファッションの深さがちょっとわかってもらえたらな、と。


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私:
ざくっといえば、紳士のファッションから端を発しているってことよね。作業着であるデニムはアメリカ発祥。アメカジにいくなら、ダメージ加工のデニムなんかはアリ。だが、紳士のファッションは、スーツから始まってるから、いかにスマートな着こなしをするか。で、間違ってるとこある?ダメージ加工のスーツなんかありえないし、なんて。あー!言葉にすると難しい。


友:
ブリティッシュって言っても、その言葉で言うスタイルがいくつかあるからなあ。(間違っていたとしても、出回ってるからね)
紳士のファッション発端は良いのだけど、そこから続く王道と、あとはモッズスタイル*1なんてのもあるしね。まあ、パンク*2までいっちゃうとブリティッシュとは言わないだろうけど、イギリス発だしなあ。

それに、紳士といってもスーツスタイル中心もあれば、フィールドワークスタイルメイン中心のスタイルも、いまはそれ単独でカテゴリー化してるし。
アメカジってのは、アメリカ文化をアメリカ自身が大量生産品の宣伝ツールとして広めた結果という見方もできるしなあ。当時の自由で夢に満ちたアメリカ風のカジュアルって事だよね。


イギリスは、スーツという現在のメンズファッションの基礎を築いたって事もあり、そのスタイルを大事にしてる人たちと、そこが余りにもガッチリやり過ぎるんで、それに反発する人たちに、大きくは分かれるかなあ。


私:
この雑誌をこないだ買ったんだけど、
http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4777925676/ref=redir_mdp_mobile
この中に載ってるアイテムって、ブリティッシュでOK?


友:
ライトニング http://www.sideriver.com/lightning/の別冊ね。したら基本がアメカジで、味付けにブリティッシュという感じだよね。ライトニングで英国特集という事は、アメカジ目線で選んだブリティッシュってことになるかなあ。


私:
そっかー、そこまで知らなかったな。まだまだ私の勉強も足りないねー(汗)


私:
> それに、紳士といってもスーツスタイル中心もあれば、フィールドワークスタイルも、いまはそれ単独でカテゴリー化してるし


ってさっき言ってたけど、フィールドワークスタイルって、そのまま、ブリティッシュ味付けのワークスタイルってこと??
どんなイメージか教えてー!!


友:
そうだね、ワーク。
ただ、ジェントリ*3以外の人達の野良仕事はスタイルにはなってないんで、やはり紳士側なんだよね。
彼ら上流階級の仕事の一つが、自らの領地を守る事なんだよね。その有事の時の為のトレーニングとして、狩りが行われたんだよ。
つまり、ハンティングスタイルが、彼らのフィールドワークスタイル。乗馬も含まれるね。
ただ、日本には冬のツイードジャケットや、バブアー http://www.japan.barbour.com/index.htmlなんかのオイルドジャケット*4アイテムがメインで入ってきてるんだけど、春夏のスタイルになると、雑誌もいきなりアメリカの西海岸だとか東海岸だとか言い始めるんだよなあ。シーズン変わったら違うテイスト打ち出してきて、テイストがごっちゃになってる訳ね。


まあ実際ね、今に伝えられてるスタイルはフォーマルでさえ、アメリカ発祥なのかイギリス発祥なのか良く分からない所があるのさ。
これまでの流れに安住しようとしたイギリスと、そのイギリスの流れを受け継ぎながらも自らを主流にしようとした、見せ方、広め方の上手いアメリカが主権争いしてる時代なんて、由来がいくつもあるんだよ。


私:
ハンティングスタイルねー!それならイメージできる。
フォーマルでも由来はいくつもあるのねー。
レディスとはちょっと違うね。レディスって、そこまでルーツ細かくないような。
っていうか、あまりファッション史、勉強してないから私がわかってないだけかー。


友:
レディスって、コレクションからの発信がメインだからでないかな?
自分も学校時代のファッション史は苦手だったからなあ。


私:
そうなんだけどさ、コレクションがメインなんだけど。ファッション史にしてみたら、たとえばシャネルがどうやって支持を得てきたとか、おおまかな話でしかわからないからさ、そういったコレクションブランドが台頭してきた背景とかがもっと詳しく知りたいのよ、ずっと前から。でも、本読んでる時間がないなーと思いつつ、今に至るんだよね。


友:
そういうのは大まかで良いんでないかい?大まか加減にもよると思うけど。歴史になると、当時の描写って大まかでしょ。


我々が通過してきたルーズソックスとか、いま言われてる事と、本人たちの動機とかって、結構ずれてたりするでしょ。歴史として認識するには、当たらずとも遠からずの言葉で取り敢えず表現するって側面があるからね。どちらかというとそこを把握した上で、過去の出来事と今を比較するとかの視点が大事だなあと思うのさ


私:
そうよね。「ファッション史」と呼ばれる本は、おおまかでないとすべて網羅できないからね。
歴史を踏まえたうえで、今、自分がどういう提案をするか?ってことよね。


友:
そうそう。
あとは、例えばシャネルってのはシャネル自身も働く女性として自立していたと言われてるし、そういう女性の為のシャネルスーツが、ちょうど当時の流れにあった、女性の社会進出に重なって広く受け入れられた。
とあるんだけど、実際に当時の人達がそういう判断でシャネルを選んだかは分からないんだよ。
単に服がカッコ良く見えたという理由で選んだ人が大半だったかもしれないし、選べる服自体が少なかったのもあるだろうし。また、当時のどの階級、クラスターの人達がメインだったかも、詳しく調べないと分からない。
変な話、実際にタイムスリップして見てみたら、宣伝方法が魅力的なだけで、値段は別としても現代に置き換えたらユニクロ的な扱いだったかもしれない。
だから、そもそもファッション史と言われる資料だけを見てそこに書かれている流行った理由を鵜呑みにするのは良くないよね。


ファッション史はそういう捉え方ではなく。
我々プロだから出来るんだけど、そのデザインに至る背景を感じ取った上で、実感できる現代の社会環境に置き換え、追体験しながらデザイナーの感性に近づこうとして、それを今に活かすってのが大事だなと。
なので自分は、別の角度から歴史を調べたり、そもそもの人間のコミュニケーションのあり方を調べたり。というのが最近は多いんだよね。
世の中との関わり方をデザインするのがファッションデザイナーだったりするからね。


私:
そうかー!ますます勉強になるよ。
ファッションって、着て終わりではなくて、いかに自分を表現するか、とか、人によって、国によって、時代によっていろんな背景があるよね。ファッション史を知ることで、うまく自分のなかでとらえて反芻して、自分のデザインとか、スタイルに活かすことが大事よね。


友:
そうそう、そういう事だよね。それを着てどんな未来を手に入れたいかという、宣言なんだよね、ファッションて。
そこに時代とか国とか文化とか、大枠でみて分けられる特性があって、それがアイデンティティになってくよね。


細かい例だけど、例えば言葉。日本では霧雨、夕立ちなど、雨を表現する言葉は多いよね。これは雨の多い国だから。
あと、魚も出世魚なんてあるし。
雨も降らず、魚も食べない所なんて、雨はrainだけだし、タコもイカもfishって言っちゃう。
同じ様に、ファッションもそういう特性があって、これまた全然違う仕組みで分布してるよね。
そういう仕組みを認識するのもまた、面白いんだよ。
それって、その時代の人が世の中を頭の中でどう仕切って区別、判断してるかって事でしょ。
ファッションはその垣根を壊したりくっつけたりもするからね。
なかなか、色んな視点を身につけるだけでも面白いし、深いよね。


しかし、これはあなたとある程度の知識や認識を事前に共有出来てるから話せる内容だよね。普通の人に話したら、その手前の事前情報だけでいっぱいになったりするからね。


私:
そうかー。わたし、めちゃくちゃ面白いんだけどなー。でもそうだよね、ファッション史なんて、まず勉強していない人からしたらわからないし、ファッション好きですって人が、ファッション史まで詳しかったら、もうオタクの域だろうね。


友:
話の中身はね、あなたが引っ張りだしてくれたから話せたけど、この内容をいきなり話したら、なかなか実感できるまではいかないと思うよ。


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*1 イギリスの若い労働者がロンドン近辺で1950年代後半から1960年代中頃にかけて流行した音楽やファッションをベースとしたライフスタイル。連想されるものとして、髪を下ろしたMod Cut、細身の三つボタンのスーツ、ミリタリーパーカー、多数のミラーで装飾されたスクーターなどがある。


*2 パンク・ロックを中心に発生したサブカルチャー。初期のパンク・ファッションでは、例えば、破けた服を安全ピンで留めたり、テープを巻いたりする。細いジーンズ、格子縞のズボンやキルトやスカート、Tシャツ、ロッカージャケット(バンドのロゴ、ピン、ボタン、鋲などで装飾することが多い)、髪型をモヒカンやもっと過激なものにするパンクスもおり、髪の毛を立たせて固め、様々な色をつけたりする。


*3 ジェントリ(gentry)とは、イギリスにおける下級地主層の総称。貴族階級である男爵の下に位置し、正式には貴族に含まれないものの爵位を持つ貴族の家門が少ないイギリスでは、貴族とともにジェントリが上流階級を構成する。


*4 一般的には生地の表面に油を塗り込み、表面に光沢や防水性や保温性をもたせた頑丈なジャケット。
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と、常日頃、こんな会話です。
打ち合わせと称して、ほぼ情報交換とディスカッション。
(きちんと製作の進捗や、方向性も話しているよ!)
これが、また勉強になるし、実になるし、自分の幅にもなるし、単純に楽しい!のですよ(笑)